題未定「<私>の虚実」第1回

 青森、それはぼくがもっとも敬愛する小説家、太宰治の故郷である。今日、その地に旅立つのだが、朝から極度に緊張=興奮している。太宰治は「津軽」という作品を書いているが、そのパラグラフがぼくの全てのメモリ=細胞を駆け巡っているからだ。
 
 同行者はぼくのおばさんと妹の春姫。
 元々、この度はぼくのおばさんがぼくと妹を旅行に行かないかと誘ってくれたことから始まった。彼女が差し出したツアーパンフレットに、下北半島から津軽地方にまわるツアーが太宰の生家も観光できると記されているのを認識した瞬間、ぼくはこの旅行に参加することを申し出たのだった。