「太宰治物語・人を喜ばせることこそ至福!天才作家の知られざる明るい素顔と妻だけが知る真実…夫は“人間失格”だったのか?」を観る。役所広司さんほどではないが、豊川悦司さんの太宰は結構良かった。それ以上に菅野美穂さんと伊藤歩さんが良かった。弟子達の人選も良かったと思う。
 脚本、演出に関しては、含羞、笑いと悲哀、自責の念を対立項ではなく、混在するごとくに描いたほうがぼくの太宰像に近かったが、こういうのは人それぞれだろう。
 太宰を扱う表現(創作、評論、伝記、研究)は難しい。太宰は、奥野健男先生が「潜在的二人称」という言葉でいみじくも表現したように、読者の懐に絶妙に忍び込むような小説を書く作家なので*1、読者に他者の太宰像を拒絶させるところがあるからだ。
 太宰作品には、セカイ系とか、非モテとか、ニート、ひきこもり、酒鬼薔薇のような脱社会的心性とか、今日の社会状況やライトノベルに見られるようなモチーフの宝庫だ。太宰から現代を、特に現代のサブカルチャー*2を記述することは重要だと思う。
 この番組を観て太宰に興味を持った人は、まず処女作品集である

晩年 (新潮文庫)

晩年 (新潮文庫)

を読んで欲しい。その後、この番組中でも触れられていた
斜陽 人間失格 桜桃 走れメロス 外七篇 (文春文庫)

斜陽 人間失格 桜桃 走れメロス 外七篇 (文春文庫)

所収の「斜陽」や「人間失格」、
人間失格、グッド・バイ 他一篇 (岩波文庫)

人間失格、グッド・バイ 他一篇 (岩波文庫)

所収の「如是我聞」などもお薦めである*3。太宰の小説は古本屋で大抵100円くらいで買えるよ。
 また、太宰研究書、太宰を主人公とした小説では
小説 太宰治 (岩波現代文庫)

小説 太宰治 (岩波現代文庫)

太宰治の生涯と文学

太宰治の生涯と文学

若き日の太宰治

若き日の太宰治

太宰治 弱さを演じるということ (ちくま新書)

太宰治 弱さを演じるということ (ちくま新書)

などがお薦め。*4

*1:だからこそ、太宰作品を読んだ人は熱狂するか、蛇蝎のように忌み嫌うかの二つに一つを選択させられる。

*2:もはやあらゆる文化がサブカルチャーと化しているというのがぼくの認識なので、改めてサブカルチャーという必要もないのだが。

*3:竹熊健太郎博士が「太宰治の「お前は女子高生のいじめっ子か」とツッコミたくなるような陰険な性格の悪さ炸裂エッセイ。特に巨匠志賀直哉に対する大人げない罵倒には唖然とします。ネット論争の教科書になるかも」と評している。

*4:上述の文章と矛盾しているが、矛盾ではある/ないのだ。