最近観た映像作品。

 最近、映画とかドラマをレンタルビデオ屋でよく借りてくるようになった。昨日観たのは原作・横溝正史、監督・市川崑

獄門島 (角川文庫)

獄門島 (角川文庫)

*1もう何度も観ている映画だし、原作にいたっては高校生の頃から何度読んだか判らない程だが*2、何時観ても震えるほど素晴らしい映像美。横溝作品独特の血と因習の悲劇性や演出されたかのような殺人現場、そして山陰地方や瀬戸内海の風景美が見事に映像化されている。
 金田一ものといえば、様々な役者が演じていることでも有名だが、「獄門島」でも好演している石坂浩次がもっとも適役だと思う。*3
 横溝作品は何度も映像化されているが、それは金田一ものがキャラクター/ビジュアル空間*4に近い虚構性を持っているからだとぼくは考えている。金田一作品の映画化は、後の角川のメディアミックス戦略に大きな影響を与えたに違いない。また、横溝先生の随筆によれば、角川で映画化されたことで起こった空前の金田一ブームの後、若い女性読者から金田一耕助宛にバレンタインデーのチョコレートがしばしば送られてきたという。*5金田一耕助にチョコレートを送る行為は、シャーロック・ホームズ明智小五郎に熱狂するのとは異なり、明らかに現在のアニメ/マンガ/ゲーム的なキャラクター消費に近い。そう考えると、金田一耕助は、ミステリ界における萌えの源なのかも知れない。*6
 「獄門島」のクライマックスを観ていて思い付いたのは、名作ミステリのスーパー・トリビュート。例えば「獄門島」に金田一耕助の代わりに京極堂が登場したらどうなるか、とか。京極堂が犯人をして凶行に及ばしめたアレを憑き物落としするの(笑)。金田一ものとかディクスン・カーの作品はオカルトめいた力が働いているように見えながら実は論理的なトリックが作用しているので、京極堂の憑き物落としははまると思うんだけど。*7後は九十九十九京極堂・榎木津コンビとか(笑)。誰かそういうSS書きませんか? JDCトリビュートよりもそっちのが読みたい。*8

*1:id:hhosono:20031012で「獄門島」を例に出したのはちょうどこれを観ていたから。

*2:確か中学生の時から乱歩を読み始めて、高校一年生の頃に乱歩の初期短編に夢中になった流れで夢野久作と横溝にも手を出した記憶がある。乱歩、夢野、横溝なら断然横溝が好き。他の二人ももちろん大好きだけどね。高校生の頃はお金がないので、よく古本屋で買っていた。当時、高田馬場BIG BOXで月に一度開催されていた古本市に通って1冊100円とかのをまとめ買いしていたっけ。横溝作品の単行本はやはり角川文庫の旧版が好き。表紙イラストと解説が良いから。何で新版はあんなにダメな表紙にするかなぁ。当時は横溝ってちょうど忘れ去られていたみたいで、古本屋ではよく1冊100円で売っていたけど、最近は旧版に限り結構良い値段で売っているところが多いね。横溝作品で最初に読んだのは金田一耕助初登場作品の

本陣殺人事件 (角川文庫)

本陣殺人事件 (角川文庫)

で、今でも金田一もののフェイバリット。ミステリでは最後に探偵が関係者を集めて謎解きをするのが定番だが、「本陣」の謎解きの下りは、京極夏彦さんの
文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

と並んで、トリック解明場面の双璧。ぼくがミステリに求める全てがここにはある。

*3:古谷一行も捨て難い。最近では豊川悦司が良かった。原作のイメージそのままではないが、彼が表現した金田一のキャラクター性は良いと思う。わりと早口に余計な情報をまくしたてるところとか、捜査中に何かを発見した時などの豹変ぶりとか。

*4:アニメ/マンガ/ゲーム的空間のことだと思って下さい。

*5:横溝先生は、有り難くそのチョコレートを召し上がったが、その後、ちょうどグリコ・森永事件が起きて青くなったそうだ。

*6:勿論、金田一耕助にチョコレートを送った女性読者達は、東浩紀さんが『動物化するポストモダン』で定義した意味で萌えているわけではない。彼女達の行為は「好き」という言葉で定義されるべきものだろう。だが、小説のキャラクターを恋愛の対象にするためのこのような態度は、後に「萌え」が登場する要因の一つにはなった筈だ。

*7:文体は探偵役または語り手で決定。京極堂が探偵役の場合は京極夏彦的薀蓄文体で、九十九十九が探偵役の場合は清涼院流水的駄洒落/アナグラム文体。

*8:また言っちゃったよ。