表現と社会と商売。
今日の芸術―時代を創造するものは誰か (光文社知恵の森文庫)
- 作者: 岡本太郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 1999/03/01
- メディア: 文庫
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ここで、岡本さんは「芸術」について語りながら、同時に「生きるということ」についても語っている。
「芸術」という様々な付加的な意味がまとわりついているこの語を、「表現」と置き換えると、かなり解りやすくなると思う。
岡本さんは「芸術」と「芸道」と対極的なものとしてとらえ、
今日の芸術は、
うまくあってはならない。
きれいであってはならない。
ここちよくあってはならない。
と主張している。
それは、芸術はそれまでにはない、新しいものでなければならず、形式にとらわれてはいけないからだそうだ。そして、自分の内的衝動を叩きつけるものであるべきだという。
この考え方は、確実に他者に受け入れられたいとか、社会的な常識、価値観に迎合してはならず、常に己の感覚に忠実であるべきだという彼の信念に基づくものである。
先にぼくは「芸術」を「表現」に置き換えることについて書いた。しかし、表現全般は(多くの人は)まずは模倣から入るものだし、商業誌で仕事をされている作家の方々は、程度の差こそあれ、「何が売れているのか、何が人気があるのか」を意識せざるを得ない状況にあるわけだから、岡本さんが語る「芸術」をそのまま表現活動全般に敷衍するのは、そぐわないものでもある。
しかし、およそプロであれ、アマチュアであれ、表現活動をする人々の初期衝動に他者性はなく、「こういうものを作りたい」という内的な欲望から生まれるものではないだろうか。
岡本さんの云う、優れた芸術に触れた時の衝撃の重要性、そして評論家による価値判断など関係なく、作り手は好きなものを作り、受けては好きなものを好きだと、嫌いなものは嫌いだと、よく解らないものはよく解らないと素直に感じるべきだという考え方には深く共感する。
それにしても驚くべきは、本書は1954年に出版されたということだ。当時の社会状況や芸術に対する社会的な認知、そして日本の美術界の状況などを考えると、当時、このような本が上梓されたことは革命的ですらある。
読了後、どのような感想を抱くかは別として、およそ表現に少しでも興味がある人すべてに本書をお薦めする。