望月さんへの返答。

 さっそく望月さんから上記の文章に対するレスをいただいたので、更に返答します。

 大雑把な見取り図を描くには、批評する文化の全体の流れを押さえておく必要があるし、基本的な教養なしの、一知半解で「見取り図」を提示されたら、それは、土台のしっかりしていないものになるのは言うまでもないです。

 この点に対しては、基本的に同意します。
 ただ、OTAKU文化研究の泰斗と称されるほどにOTAKU文化について網羅的な知識を持っていなければ批評をする権利はないというわけではなく、OTAKU文化を基本的な概略程度に押さえておく必要があるでしょうね。望月さんもこの点に関しては同意していただけると思います。また、望月さんは、東さんが基本的な概略すら押さえていないと指摘されているわけで、この点については、半分同意します。ぼくは『動物化するポストモダン』は第三世代男性オタク文化の解説書としてよくまとまっていると考えているので。

 「ハッカーカルチャー」と呼ばれること自体は、オタクとしての俺は、なんら反発を感じません。むしろ、いいこというじゃんと思う。細かい点ですが、細野さんは、何か勘違いしておられるかもしれない。

 ハッカーコミュニティというのは、オープンソースLinuxやらperlやらApacheやらを作って、コンピュータ業界全体を進歩させてきた集団なわけですから、日本のオタクがLinuxに相当するものを作ったかどうかはともかく、比較されることは、悪くない気がします。

 さて、東氏の評論は、単なる「パロディ化、ハッキング」なんですか?

 だとしたら、単なるパロディに過ぎないものを、「これが貴様の現状に対する批判だ!」と大上段に振りかぶられたら、ムカつくのは当然でしょう。

 単なるパロディでないのなら、「自分がパロディ化されると怒る」という見方は、不公平だと思いますが。

 ぼくはOTAKU文化はある種のハッカー・カルチャーだという東さんの指摘は望月さん同様、良いことだと思うし、おそらく東さんも肯定的な意味で使っているのだと思います。
 ぼくの書き方が適切でなかったことによるものですが、上記の文章ではOTAKU文化≒ハッカー・カルチャーであることと、東さんによるある種のハッキングに対してオタクが怒ったという話は別個のものとして考えてください。望月さんがコンピュータの比喩を使って説明したように、OTAKUたちはアニメ、マンガ、ゲームといった文化を、主として記号的操作によって多様性のある豊かなものにしてきたのだと思います。
 しかし、そうした現象と、東さんによるある種のハッキングに対してオタクが怒ったという話は違います。上記の文章でのオタクの超越的自意識の下りにつながりますが、東浩紀という(オタクたちから見て)非オタクによってオタクたちの行動や文化を超越的文脈変換作業をされたことに対する怒りで、それまで散々パロディという文脈の変換作業を行っていたオタクたちが、自分たちがその対象になった時に怒る権利はあるのだろうか、ということです。

 「多くの作家」が、パロディに拒否反応を示したかどうかは、また別の話です。

 「エロパロは嫌だなぁ」とか「金儲けに走るのはどうよ」という人はいますが、純粋にファン活動で、自作を使われることに大して、「創作に伴う苦労を〜」という人は、案外、少ないんじゃないかという気がしますね。

 「オタク」というアイデンティティを持つ作家ならば自分の作品がパロディの対象になることに嫌悪感を感じないだろうし、寧ろ人によっては喜ぶでしょう。
 しかし、「オタク」というアイデンティティを持たない作家や「創作」の苦悩と喜びを重んじる作家はパロディに対して否定的な人が多いと思います。特にオタク以前の大御所作家たちは。
 具体的に言うと、マンガジャパンという大御所マンガ家による団体がありますが、この団体に所属している大御所マンガ家たちはパロディ同人誌に対してかなり否定的です。おそらく、彼らにとって同人誌と言えば石森章太郎らによる創作同人誌『墨汁一滴』のようなものなのでしょう。

 この事はオタクだけでなく、東浩紀を批判する人の感情的反発を惹起している。*2つまり、東浩紀をめぐる批判は、文系男子の階級闘争という側面があるわけだ。

 これに関しては、まぁ、そうですか、としか言いようがないなぁ。オタク側からの批判で、それが反映してる例は、あまり見たことがありません。

 この点に関しては、主として所謂現代系オタとオタクではない人文科学系大学院生などを想定しています。またそうした人以外でも、とかくオタクを含めた文系男子には知識の「濃さ」をひけらかしたり、他の面に自信が無いために知識偏重主義的になっている人が多く、学歴コンプレックスが強いとぼくは思います。
 ぶっちゃけて言うと、2ちゃんねるの東スレ(特に哲板)はたまにクリティカルな指摘があるものの、多くはろくでもない悪口雑言ばかりで、「こいつら、自分の将来の不安をここでぶちまけているんだな……」と思うのです。
 また、確かにどんな集団にも嫉妬などはつきものですが、「文系男子」固有の嫉妬の質というものがあると思います。id:hhosono:20041223#p2で示した表も「文系男子の階級闘争」という側面を表したいという意図の下に作成しました。
 とりあえずはこんな感じで。