ベネツィア・ビエンナーレ国際建築展日本館帰国展に行ってきたよ。

 去年、OTAKU界で話題になったベネツィアビエンナーレ日本館の展示物が東京都写真美術館で一般公開されたのでid:Bang-choと観に行ってきますた。
 テーマが「おたく:人格=空間=都市」と題されたこの展示会の概要については


http://www.syabi.com/topics/t_otaku.html
http://www.jpf.go.jp/venezia-biennale/otaku/j/
を参照してもらうとして*1、個人的な感想を幾つか。
 まず、ベネツィアビエンナーレでの展示と今回の展示は規模が違ったようだ。というか目玉のおたくの部屋の展示など、相当に簡略化されていた。その点が最大の不満。
 また、留意すべきは今回の展示会は「美術展」ではなく、「建築展」だということ。つまり、「おたく:人格=空間=都市」というコンセプトに見られるように「おたく」という視点から趣味嗜好を中心とした人格と、OTAKU文化が好きな人たちの部屋と秋葉原というOTAKU文化と密接な関係にある都市の相似点を建築という構造体として見ようという意図がある。
 本展示会の最大の功績は、OTAKU文化の現在を都市論、建築論の視点からOTAKU文化に馴染みのない人々にひろく紹介したという点に尽きる。OTAKU文化に興味のない人にはもの珍しく思えるかも知れないが、OTAKUが何の予備知識もなくこの展示会を観に行っても大半の人は「別にこんなの実物知ってるし」で終わるか「あー、そうなんだよねー、OTAKUって」と言いながらニヤニヤするかのどちらかの反応に類別されると思われる。何故か。考えうる要因として、この展示会が建築意匠論の研究者であり、実際にOTAKUである森川さんの関心によって完璧にコントロールされていることが挙げられる。つまり、この展示会は森川さんから見たOTAKU文化の展示会なのだ。そして、あくまで建築の展示会であることにこだわった結果、全ての展示物は動きがなく、立ち止まって鑑賞するものだけになった。しかも、フィギュアのような立体物すら美術彫刻作品のような立体性を排除され、スーパーフラットなものとして展示された。この展示品とのクールな距離感はやはり建築意匠論研究者の視点ならではのものであろう。この距離感に気づかない限り、この展示会は単なるOTAKUカタログにしかならない。*2そうした視点に立つと、この展示会全体がOTAKU自身に自分の視線の異化を働きかける装置であるとも取れる。人は誰でも自分の好きなものには、認識上の距離感が近くなりがちである。殊にOTAKUはキャラクターや虚構世界という装置によって他の対象とは異なったアプローチで嗜好の対象へ接近していく。そうした想像的同一化をずらすことが、この展示会にはあったと思うが実際に森川さんがそうした意図を持っているかどうかは定かではない。*3
 また、ここではアニメやゲームのポスターが一面に貼り出され、フィギュアやアニメ雑誌やアニメ主題歌のCDなどがレンタルケースの中に収められ、OTAKUの個室のミニチュアが数多く展示され、同人誌やコミックマーケットのカタログのサークルカットが実際の配置を模して展示されていたが、これらの傾向が男性OTAKUの視点にあまりに寄り過ぎているのが奇妙に思った。「秋葉原はそういう街だし、秋葉原という街が重要なテーマになっているのだから仕方がない」という見方もあるだろう。しかし、本当にそうだろうか。例えば秋葉原にあるゲーマーズやK−BOOKSや虎の穴やアニメイトにはやおいボーイズラブ系の商品が数多く並んでいるし、COSPAだってある。「森川さんの視点は建築意匠論にあるのだから、そうした個別の文化まで紹介する必要はない」というならば、食玩や同人誌を紹介する必要はない。コスプレややおいボーイズラブのような主に女性OTAKU文化によって培われてきたものに対する配慮がなかったことは、コミッショナーである森川さんの責任であろう。
 余談だが、内藤泰弘さんによるキャラデザの「ガングレイブ」とデビュー前に出された同人誌が展示されているのを見てニヤリ。後、ぼくたちが行った日は森川さんと斎藤環さんによる関連フォーラムが開催される日で、展示を見終わってロビーに行くと予約券を持った人々がたくさんいた。誰か知り合いはいないかと思って見渡していたが、誰もいなかった。しかし、竹熊健太郎さんによるインタビュー集で若い世代にも知られ、それ以前から「戦後最大の呼び屋」として君臨していた康芳夫さんらしき人がいらっしゃった。ぼくは氏のことは竹熊さんの前掲書でしか知らないが、あれだけ個性的な容貌の方はあまりいないと思う。

 また、この展示会のレポとしては竹熊さんによる
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2005/03/otaku.html#more
伊藤剛さんによる
http://d.hatena.ne.jp/goito-mineral/20050307#p2
などが参考になる。

*1:昨日、自分でも書いたんだけど、間違って消してしまったので。

*2:見ることに対する森川さんの意識的な態度を感じた点として、OTAKUの部屋のミニチュア展示の入り口に多数並べられた映像機材が挙げられる。プロジェクターなのかカメラなのかわからなかったが、これらの機械は別に作動しておらず、単に並べられていただけのようであった。これは、OTAKUの部屋を見る鑑賞者への視線の象徴ではあるまいか。

*3:興味もない。