文章読本。

 最近、知り合いが「卒論を書かねばならないのだが、論文の形式的作法がよく解らない」と言うので、「論文・レポートの書き方」についての文庫・新書で良いものがあればプレゼントしようと思って、書店で何十冊か立ち読みした。こういう類の本はあまり読んだことがなかったので、良い機会だと思ってとにかくできる限り目を通したが*1、大半の本は役に立たないものだった。
 学術論文を書く際の形式上の要点は、アカデミズムの中で培われた文章作法に則することと客観的な文章を書く(ように努める)ことの二点にある。それゆえ、論文を書く技術の概説書は、第一にその基礎作法を最低限の用例を示しつつ簡潔にまとめるべきである。そうすれば読者も理解しやすいし、紙面の節約にもなる。第二に情念的な説明でなく、具体的にかつ冗漫にならないように書くべきである。しかし、多くの概説書はどうでもいいことを延々と述べており、しかも説明が下手である。「私は論文を書くためにこれだけの苦労をした。そして、学問というのは崇高で高尚なものなのだ」という自慢話ばかりなのだ。
 こうした概説書の読者は、正に学問の道に気づき始めた人なのだから、そうした自慢話や難解で生硬な表現は避け、簡潔かつ具体的に書かれていなければならない。文章読本は、少なくとも入門書である限りは実用性が第一に重んじられるべきである。これだけどうでもいい記述が多いと、論文を書く基礎的作法を他人に教えるのがもったいないと思っているのではないか、基礎作法は解っているが、その応用の具体的説明ができないから自分の苦労話で字数稼ぎをしているのではないかと勘繰ってしまう。
 論文・レポートの入門書を選ぶ際は、インターネットなどで書評を集めた上で、実際に本屋に足を運び、できる限り多く類書を立ち読みして、読みやすいものを選ぶといい。多くの研究論文を読み、それらの文章と自分の文章を比較するのも重要である。
 ぼくが調べた範囲では、

論文・レポートのまとめ方 (ちくま新書)

論文・レポートのまとめ方 (ちくま新書)

が比較的実用的だった。著者は計算言語学、言語情報処理、人工知能の研究者でアメリカの大学で教鞭を執っていた経験もあり、文系の学者にありがちな冗漫な記述を排し、論文の基礎作法の説明を明朗かつ実践的に記述している。
 もちろん、上掲書以上の良書もあるだろうから、ご存知の方はコメント欄などで知らせていただけると幸いである。

*1:ぼくはいつでも利己的です。