私立眼鏡学園のこと。

 まだ、公式ブログも用意できていないのに、個人的な意見を書くのはためらわれたが、誤解、その他諸々の偏見などなどが既に上記イベントに関してネット上で多く流布している。他愛のない罵詈雑言に関しては黙殺しても良いが、id:rivegaucheさんのレポには、それらに対する所感を述べることがスタッフであるぼくの緊急の責務であると感じたので、以下に私、細野晴彦「個人」の上記イベントに対する雑感、およびid:rivegaucheさんの感想に対するぼくの理解をここにまとめる。

 まず、id:rivegaucheさんは以下のように書いている。

出かけた主な目的は、出演者の一人、メガネキャラとして人気を博するid:Ray-Rayこと水野レイさんに会うためであった。ネットを介しての面識は以前からあったけれど、地方在住者のレイさんとじかに挨拶を交わす機会が、長らくなかったからである。ちなみに甘く見ていたせいで、早々にチケットは完売となり、危ないところだったのだが、主催者の一人であるid:hhosono細野晴彦さんのおかげで滑り込むことができた。
(中略)
だが彼の商売に付き合う理由は私にはない。私はレイさんに会い、加えてメガネイベントを楽しむために来たのであって、彼のパフォーマンスを鑑賞しにやってきたわけではない。そんなことは彼自身のファンの集いにおいてやるがよい。

 私立眼鏡学園というイベントは、何にも増して、眼鏡および眼鏡をかけている人が好きな人のためのイベントです。しかし、id:rivegaucheさんの文章の全体、そして上記引用箇所を拝読する限り、id:rivegaucheさんは別に眼鏡にも、出演者の皆様にも、個人的に面識があるぼくがスタッフとして参加しているイベント自体にも興味がなかったように思えます。水野レイさんと会うのが目的なら、イベントのようなあわただしいときでなく、他のもっと時間的余裕がある時になさったらいかがでしょうか。ぼくはid:rivegaucheさまが、ぼくの表現活動に興味を持ってくださったのだと思い、当日はid:rivegaucheさまや他のお客さん、出演者、スタッフ、皆で楽しめるようなイベントにしようとできる限りの努力をしました。しかし実際はそうではなかったようで、非常に残念です。
 また、田丸さんのお客さんへのサービスへの項ですが、「私はレイさんに会い、加えてメガネイベントを楽しむために来たのであって、彼のパフォーマンスを鑑賞しにやってきたわけではない。そんなことは彼自身のファンの集いにおいてやるがよい」とあります。id:rivegaucheさんは「メガネイベントを楽しむために来た」とお書きになってますが、具体的にあのイベントに対して、眼鏡イベントという部分をどのように求め、期待されていたのでしょうか? id:rivegaucheさんの文章を拝読する限り、それは一向に感じられません。
 また、本イベントは眼鏡および眼鏡をかけている人が好きな人のためのイベントですが、同時に田丸さんを始め、各出演者とファンの交流イベントでも勿論、あります。マンガ家さんや声優さん、ライターさんをお招きして眼鏡に関するイベントを開催したとして、単に眼鏡に対するトークだけでなく、自分が好きな作家さんとの交流を期待するのは当然ではないでしょうか。id:rivegaucheさんは田丸さんに興味が無かったのかも知れませんが、id:rivegaucheさんの上記のご意見は、実情に即していないと言わざるをえません。
 ぼくは田丸さんのお客さんへのサービスは、男性も欲望の対象になることを実践するという意味で、ぼくたちスタッフがこれまで培ってきたことの表れだと認識しています。ぼく個人の率直な感想を述べれば、あの時、田丸さんはすごく格好良かった。

 次に

だがこの第二部で決定的によくなかったことがひとつあった。後半で、壇上の論者たちに対する質疑応答のタイムが設けられたとき、一定の時間が過ぎた時点で司会者が、「これ以降は女性にのみ質疑を許可する」と発言して場を仕切ったことである。

司会者はその理由として以下のように語った。この第二部を設けた意味は、ひとえに〈男性オタクと女性オタクとの交流を図る〉ことにある。そして現実問題として、この会場には圧倒的に女性の数が少ない。ゆえに女性に対して、主催者側から積極的に発言の機会を提供してこそ、はじめて〈交流を図る〉ための大前提である〈平等〉を実現することができる。司会者はそこにおいて、アメリカで黒人差別の解消のために、大学において黒人優先入学枠が設けられた史実を例に挙げていた。要するに〈差別〉を解消するために〈差別〉が必要だというわけである。
(中略)
少女愛好の男性オタクの大半は、BLに対して関心を持たず、当然知識も薄い。その現状下において、彼らの大半は、単にBLを無視するのみならず、BL愛好家の女など気色が悪いと思っているのが実情のはずである。そして彼らはその差別意識を隠さない。
(中略)
この亀裂を解消するのは容易なことではない。男性オタクと女性オタクに交流がないのは、そもそも〈腐女子〉たちが身をかがめた姿勢であることに、男性オタクたちが無頓着であり、気づきもしないからである。だとすれば交流の第一歩において何を為さねばならないかは明白だ。男性オタクたちに〈腐女子〉を直視させ、彼女たちについてどう考えているのかを正直に告白させればよかったのである。
(中略)
ここにおいて司会者の為すべきだったことが何かは明白である。〈女性〉に対して〈優先的〉に〈自由〉な発言の機会を与える必要などなかった。必要だったのは〈男性〉を指名し〈強制的〉にBLについて思うところを述べさせることだったのだ。――いや、言をあらためよう。もっと効果的なのは、第一部の男性論者たちをこの場に連れ戻すことだったはずだ。第一部の論者は、水野レイさんを除いて男性だった。この男性たちは、第二部においては、楽屋に引き上げて、その場にいなかった。

この彼らの、楽屋の岩戸篭り自体が問題だった。彼らが楽屋の中でそもそもの当初から、いかにくだらない喋々喃々に終始していたらしいかは、このあとで言及する。もし彼らにほんの少しでもこのイベントの〈趣旨〉が了解されていたならば。〈男性オタクと女性オタクの交流〉について思いをいたすところがあれば、楽屋になど引っ込んでいてよいはずはない。これは本当の意味で許しがたい怠惰である。司会者はこの怠惰な連中を楽屋から引きずり出し、BLについてその無知と偏見をさらけ出させれば良かったのだ。

それこそが彼の為すべきことであった。だが残念ながら、この司会者にはそのことがまったく分かっていなかった。彼は腐女子に発言の機会を優先的に与えた。その実質は、観客のごくわずかしか占めていなかった女子にとって、自由どころか、むしろ発言せよという強制以外ではなかった。そしてそうやって強制された女子の発言を、男性オタクたちは十二分に鑑賞し、文字通り楽しんだのである。それが第二部の、和気藹々とした〈好評〉の実態であったといってよい。

 えーと、id:rivegaucheさんのまとめは、ぼくの当日の発言と食い違ってます。ぼくはイベント全体はオタク男性と女性のディスコミュニケーションを解消し、性別関係なく、共に眼鏡っこをOTAKU文化を楽しめるものにするために開催したと申しましたが、2時間目はそもそも前回のイベントで提出されたアンケートの「男性は好きなものについて語れる場があっていいなー…… 女性もそういう場所欲しいっす」というご意見を受けて企画されたものです。だからこそ、女性出演者メインで進行していただいたのだし、それに対して男性がやおいやBLをどう思うかについて意見を述べていただくためにはいぼくさんと西川魯介さんに壇上に上がっていただいたのです。
 また、id:rivegaucheさんは

その現状下において、彼らの大半は、単にBLを無視するのみならず、BL愛好家の女など気色が悪いと思っているのが実情のはずである。そして彼らはその差別意識を隠さない。
(中略)
ここにおいて司会者の為すべきだったことが何かは明白である。〈女性〉に対して〈優先的〉に〈自由〉な発言の機会を与える必要などなかった。必要だったのは〈男性〉を指名し〈強制的〉にBLについて思うところを述べさせることだったのだ。――いや、言をあらためよう。もっと効果的なのは、第一部の男性論者たちをこの場に連れ戻すことだったはずだ。第一部の論者は、水野レイさんを除いて男性だった。この男性たちは、第二部においては、楽屋に引き上げて、その場にいなかった。

 と仰っていますが、ぼくは、あの場でのぼくの行動は、ベストではないかもしれないだろうけど、ベターな判断だったと思います。まず、第一部の出演者を再び壇上に上げて、やおい、BLについての意見を求めるというのは、イベントに進行というものがある以上、不可能です。あのイベントはかなりタイトなスケジュールでやっていたので、第一部の出演者を再び壇上に上げるということをしたら、イベントとして崩壊するのは目に見えています。
 また、アファーマティヴ・アクションとして、発言者を女性に限定したのも、ぼくは有意義だったと考えます。繰り返しになりますが、2時間目は女性が自主的にやおいやBLについて語ってもらうことが目的だったのですし、女性に発言を強制させるような結果ではなかったはずです。また、あそこで「アファーマティヴ・アクション」という考え方があることをアピールしたのは決して無意味だったとは思いません。

 まだまだ書くべきことはあると思いますが、とりあえず、ここまで。
続きはまた書きます。

続き:田丸さんのマンガは、そして田丸さんは格好よいし、面白いよ! ぼくは田丸さんのマンガが「つまらない」って感想には「はー、そういう人もいるのねー」としか思わないけど、田丸さんのイベントでのパフォーマンスやマンガについて「有害」だという人とは、できる限り、話しあい、その誤解を解消すべく尽力するつもりです(相手が最低限の論理性と節度を持っていれば)。